セプテーニ・オリジナルさん主催でEventStormingワークショップを行いました。

マーベリック株式会社、技術広報のリチャード 伊真岡です。11月16日土曜日にセプテーニ・オリジナルさん主催でEvent Stormingワークショップを行いました。私はそこでファシリテーター役を務めたので、当日の様子を私から見てブログに記します。ディスカッション慣れしていた参加者の皆さんに助けられ、実りの多いワークショップになりました。

readeffectiveakka.connpass.com

Event Stormingとは複数人で行うワークショップの一形態です。英語の公式サイトに情報が載っていますし、日本語の情報だとyoskhdiaさんのブログ記事に解説が載っています。

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このGIF画像のように、ふせんをたくさん使って議論と整理を進めていきます。段々とカラフルなふせんが増えて途中を仕切る線も加えられているのがわかるでしょうか?ふせんを並べ替えたり追加したり、ふせんの集まりを区切ったりしながら、皆で議論して業務手順の理解を深めます。

今回行ったワークショップはEvent Stormingの中でもBig Pictureワークショップと呼ばれる方式で、Big Pictureという名の通り特定のビジネスの全体、業務手順どうしのつながりに対して理解を深めるためのワークショップです。その他のにはUI(ユーザインターフェイス)デザインのためのEvent Stormingワークショップや、よりソースコードでの実装を意識したワークショップがEvent Storming公式サイトで紹介されています。

今回のワークショップの題材

ワークショップではより参加者になじみがあるビジネスであろう居酒屋を題材に、具体性をもって議論ができるように以下の設定をしました。

今回の分析対象: 客席数150人~200人規模の居酒屋

やや大きめの居酒屋です。居酒屋だとメニューの豊富さやコースの有無、予約やクーポン、団体客など程よく複雑性があり、分析しがいがありそうです。

さて今回は店の注文・配膳および会計など飲食店の業務全体を支えるシステムを導入することにしました。システムとしてはこちらが参考になるかもしれません。もちろん導入すべきシステムが私達の要望を全て満たしてくれるかわからないので業務分析を行ってシステム導入のための要求を洗い出しましょう。

店の規模:
カウンター席、テーブル席、大小様々な個室があります。全部で150人〜200
人収容できます。

厨房:
厨房と接客フロアは別れています。厨房の人員が直接注文をうけることはありません。

接客:
フロアの接客担当が注文を伝票に記入していました。会計時にはフロア担当が店入り口のレジで会計します。大人数の団体客には席での会計を受け付けていました。

システム導入の目的:
店舗での業務の効率が悪く、またミスが多く高い廃棄率にもつながっていたためシステムによって業務をサポートする判断がなされました。また外国人従業員の採用も考え、できるだけ簡単に業務が覚えられることが望ましいです。

ワークショップで行った分析を紹介

まずは全体の手順、来客から精算までの全体的な業務手順をあらいだし、だんだんと部分的な手順からより詳細な手順を洗い出していきました。それらの詳細な部分的手順の例の一つとして「団体客の1stドリンク受注」を切り出してみましょう。居酒屋で客が来店したあと、一番最初に全員分のドリンクを注文するあの手順です。「ユーザーストーリー」という言葉に馴染みがあれば、これはひとつのユーザーストーリと言えそうです。

写真だと少し見づらいので改めて描画ソフトで図にしたのがこちら。私達ワークショップ参加メンバー渾身の分析結果です。

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最初は「ドリンク注文はメニューを客に渡して、注文を受け付けるくらいじゃないのか?」と思っていました。しかし詳細にストーリーを検討すると「飲み放題コースがランク別に分かれている可能性」「遅れてくる客がいてなかなか全員揃わない」「客がドリンク注文を決めるまでやたらに時間がかかる」「ドリンクが売り切れる」など様々な場合分けでの対応が必要なことがわかり、参加者みな団体客のドリンク注文処理の複雑さに改めて感じ入っていたようでした。

そしてこれは「初回のドリンク注文受付」のみであり、ドリンクを配膳するところは別のユーザーストーリーとなりますし、2回め以降のドリンク注文、食べ物の注文や調理、配膳もそれぞれ別のユーザーストーリーです。「居酒屋へのシステム導入」という設定でワークショップを行いましたが、現実の業務手順はソフトウェアで表現できるよりはるかに複雑で高度な処理を多数行っていることがわかりました。

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参加者の感想

ワークショップの最後には参加者の感想を共有しました。一番皆が同意したのは「この複雑な処理を毎日何度も行う人は優秀」という人類に対する畏敬の念でした。他の感想は以下にあるとおりです。

  • ふせんのドメインイベント(公式サイトやyoskhidiaさんのブログ参照)には主語を書いたほうがわかりやすい
  • 登場人物をドメインイベントを考えると同時に貼っていかないと忘れそう
  • ふせんの整理が横軸(時系列)と縦軸(参加者のセンスに任される)だけだと難しい、もうひと軸欲しいくらい
  • 対象の業務領域の経験者がいるとドメインイベント洗い出しがはかどる
  • ワークショップの中でどこまで異常系・例外的なフローを洗い出すか
  • ドメイン・イベントは過去形の動詞を用いるというルールだがこだわらなくてもよい?
  • ドメイン・イベント主体で洗い出すと抜けもれが少なくなりそう
  • 物理のふせん紙を使うと検索ができない
  • 矢印を描きたい(今回はカベに直接ふせんを貼りました)
  • 事前に思っていたより細かい点まで分析できた、その共通認識がもてた
  • 2回目を明日やったらもっと上手に分析できそう
  • 今回は来客から精算までというスコープだったがその前後にも話が広がって収集がつかない部分もあった
  • 人数が増えると情報が増えすぎてワークショップ運営が難しくなりそう
  • 食べ物は必要、リラックスできる要因になった

Event Stormingというワークショップ形式自体がおもしろく、また参加者のみなさんが積極的に参加し鋭い指摘を次々にしてくだたおかげで様々な学びがありました。数多く挙げられた感想にそれが表れています。Event Stormingはいろいろな対象の業務分析に役立ちそうなので機会を見つけて活用していきたいです。

おまけ、ふせん紙の品質について 今回ドメイン・イベント用に使っていたふせん紙が何度もはがれおちてしまいました。ドメイン・イベントはEvent Stormingワークショップの中で最も数多く、100枚や200枚のふせん紙を使うこともめずらしくないでしょう。「最もよく使うものこそ高品質で使いやすいものを」という人生の教訓まで得られた1日でした。

参加してくださった皆さまありがとうございました!